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航宙機動部隊第三章・34

[566]  まっかつ  2007-07-23投稿
―シルミウム星系外縁・統合宇宙軍旗艦《スタニドルフ》―\r

エタンの正式な肩書きは、統合宇宙軍最高司令官・大元帥・兼・在最外縁主権執行者だ。
そのいずれもが、この狭い辺境中の辺境でしか通用しない。
言い換えれば、中央域が主宰する銀河航宙文明圏からすれば、彼等はいまだ多少大規模化した宙賊・エタンはその親分位にしか認識されてはいなかったのだ。
だが、その彼等の位置付けが、歳が開けてから急速に変動を来たしたのは、他ならぬ若きユニバーサル=エリートの慧眼を以てしても、青天の霹靂としか表現し様が無かった。
そう、星間諸侯太子党と言う光年単位の巨大かつグロテスク極まる寄生虫の群れが、パレオス星邦=合衆国連合艦隊を内部から食い荒し、その肉体のみならず頭脳をも、パニックと機能不全にまで陥れる何て、誰も予測はつかなかったろう。
九九パーセント他力によってもたらされた僥幸に、しかしエタンは喜びはしゃぎ回りはしなかった。
それ以前に彼は一軍の総帥であり、最外縁五0億星民を束ねる君主なのだ。
外的要因がどれだけ変わろうとも、自分の手の届く部下や領域をしっかり掌握する事が一番重要だ―青年皇帝はそれを良く知っていた。
白地に金の縁取りを擁した第一種軍装で身を固めたエタンは、決意も新たに皇帝執務を後にした―御前会議が始まるのだ。
衛士二人と共にワイヤーカーゴに乗り、一五分ばかりのささやかな旅程を経ると、それは既に作戦関係者の全てが詰め掛けている、指定の会議室前に到着した。
入口前にぴったりと合わして開かれたドアを出て、大勢の敬礼を浴びながら彼は用意された玉座へと進み腰を下ろした。
肘掛け付き多機能椅子の背もたれに、申し訳程度に紫の布を被せただけで、後は他者の席と何も変わらないそれは玉座だった。
既に会議は始まって、左総長・クレオン=パーセフォンが起立しながら緊張の面持ちで自身の立てた艦隊決戦案を、居並ぶ提督達に説明していた。
当然の事ながら、皇帝も事前にその素描なり大略なり伝えられている。
やがてクレオンの指示で室内の照明が落とされ、造られた暗闇の中で、平面・立体のホログラムや電子数列が所狭しと繰り広げられ、それ等の乱舞がこれから帝国のやろうとする大博打の詳細を雄弁に物語っていた。
その独創性・可能性・そして無謀ささえも。

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