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降臨

[625]  金田七耕助  2007-08-03投稿
 霧深い早朝、町を見下ろす小高い丘の頂上は、一層深い霧に覆われていたが、その薄暗い空中に二つの黒い影が現れ、静かに地上に降り立った。
 全身黒装束の二人は、よく似た兄妹で、静かに顔を見合わせただけで、別々の小道を歩き、山の反対側を下っていった。
 霧の中から別々の町に現れた時には、それぞれ普通の小綺麗な服装を身につけていた。
 彼らは、その優れた知恵で社会に溶け込み、数ヵ月後にはすでに認められた存在になっていた。
 不思議なことに、次第に彼ら自身は地位と富を増やし、人々を支配していったが、周囲には何故か不幸や諍いが創り出され、それは、彼らの子孫が増えるのと相まって、徐々に全世界に広まっていった。
 しかし、この時代には、彼らの呼び名、悪魔という言葉はまだ無かった。

無垢な人間は誰一人として、彼ら悪魔に打ち勝てなかった。
 正義という言葉を携えた天使が、地上に舞い降りるのは、全世界が悪にまみれ、人々の悲しみが天に届くほどになってからのことである。
 後から舞い降りた者は、姿こそ優しいが、悪魔達にとっては、戦慄すべき強敵であり続けた。

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