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雪の華34

[635]  龍王  2007-10-06投稿

『ありがとう──桃実』


 黒峯はそれから小さく一言さようならと言った。

 私はその言葉が耳に残ったまま、背中を向け、歩き出す黒峯の姿を見つめていた。

 黒峯は振り返ること無く、そのまま姿を消した──




 さざ波の音がキコエナイ
 サヨナラ黒峯が言った言葉
 今までソコにいたのに……



「…………や………いや……」

 桃実はガクッと膝をおると、黒峯が消えた方向を見つめ、大粒の涙を流していた。


「い……や…黒…峯……や………イヤァァァァァァ───────────────!!」

 何の言葉を言っているのか、声が出ているのか、自分がどうなっているのかワカラナイ。

 桃実は半狂乱になり、ただ泣き叫んだ。
 冷たい風が吹く海でたった独り。

「イヤァァ…ァァ…ァァ黒峯ェェェ黒……峯ェェ……」

 桃実は黒峯を呼び続けた。
 でも──黒峯はイナイ。


「も……う……いや……黒…峯がイナイ…なら……もう……」

 桃実はフラッと立ち上がると生気の無い瞳を海に向けた。

 流れる涙は止まるどころか溢れ出て、頬からポタポタと落ち続ける。





 

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