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航宙機動部隊前史・32

[595]  まっかつ  2008-01-09投稿
保守と革新・銀河の覇権を巡る二つの文明の衝突―\r
勝利は宙際連合側に帰した。

戦争を経て、球形に均すと半径二六0光年・総人口八00億にまで拡大していた宇宙文明世界は、全て中央域の支配に服する事となった。
旧航宙遊牧民族を解体した宙際連合は、早速《グランドパージ》と呼ばれる大粛清を発動した。
宇宙時代版《焚書抗儒》だ。
戦争の勝利に酔いしれた宙際連合は、文明保守原理主義と中央域王道思想を振り回し、強権によってあらゆる航宙遊牧民族的な物を消去しまくった。
それは、航宙遊牧民族に対する彼等の恐怖の裏返し以外の何物でも無かった。

人類聖教化委員会を足場にした宗教界が音頭を取り、《現生人類種保全局》・《科学技術検閲局》・《反王道思想統制取締局》の保守三局が設置され、異端摘発・調査監視の網が宙際連合全領域に巡らされた。
戦争が終って縮小の危機に怯える軍と内務諜報はこの新しい仕事に喜んで精励し、更に戦争に代わる刺激的な話題に飢えていたネット集合体がこれに食い付いた。
それは古地球時代・末期のローマ帝国を制圧したキリスト教の展開した異教撲滅キャンペーンに酷似していた。
そしてそれによってもたらされた損害は、古地球時代とは比較にならなかった。
後の時代はこの大粛清を《文明の後退》と呼んで嘆いた。
例えば医療分野では全てのクローン技術が否定され、それまで蓄積された最盛医療の成果は全て消去を命じられ、その学習まで禁じられた。
為に、この方面の医学の進歩は大幅な停滞を来たし、征夷王道化戦争前の水準を回復するまでに実に三星紀を要する事となったのである。

ユニバーサリズム支持派の政治家・要人は公職追放され、異端宣告を受けた独立勢力は容赦無き軍事侵攻で滅ぼされた。
更に、旧航宙遊牧民族や異端勢力市民を対象に、銀河各地に《王道化矯正院》が設けられ、ピーク時には二0億人が収容された。
又、宙際連合内や独立勢力の異端者達を僻地の惑星可住化に投入する事業が開始され、こうして組織された贖罪移民団は三0億人の多きに登った。
航宙遊牧民族系の科学技術や文物思想は原則完全破壊が命じられ、彼等の残党や航宙狩猟民族・宙際連合の一部の科学者が回収した分を除く七割以上が、この時永久に失われたとされる。

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