携帯小説!(スマートフォン版)

箱の中

[434]  tomio  2008-01-29投稿
 人は何故エレベーターという箱の中で耳をすますのだろう。
何故、階数表示を祈るように見上げてしまうのだろう。

私はエレベーターがあまり好きではなかった。何かしら気を遣わなくてはならないパブリックな乗り物だからだ。
電車やバス、その他の箱形交通手段のいくつかも他人様と乗り合わせるという意味では似ている。
しかし、その圧倒的な狭さは稀だ。
意外にも静かで、短いのに長く感じる気まずいひと時。

その日は、できるだけ歩きたくないくらい、とにかく疲れていて、
私は早く来いよとエレベーターのボタンを連打した。
来た?あら通過。地下?誰か乗ったらしい。
再び上昇。止まった。ここ1階。ひらく扉。乗る私。
案の定、先客が壁に寄りかかっている。
高校生くらいの男子だ。ヘッドフォンをして天井を見上げている。
私は無感情のまま階数ボタンを押し、扉脇に立つ。
ドアが閉まりゆっくり上昇し始める
その瞬間だった。
“ん?クサイ?”
乗り込んだファーストインプレッションから引っ掛かっていた違和感が確信に変わる。
“若者よ、したな?”
私はできるかぎり無表情で若者の顔つきをチラリと探ってみた。
なんとまぁ。驚いた。アッケラカンとしていらっしゃるではないか。
“何か問題でも?”みたいな。
私は何だか自分が気にしていることのほうが非常識で恥ずかしいとさえ思えてきて、
取り敢えず“気にしない”ことにした。
匂いは相変わらずなのだが。
気付かぬふりをしてみた。
匂いはむしろ強まっている気さえしたのだが!
私達は沈黙を守りつつ階数表示を見つめた。
2 3 4 5 …6!彼が降りると予告したフロアで箱は止まり、固く閉ざしていた扉を開いた。
彼は欠伸なんかしながらスタスタと外界へと立ち去っていった。
私はホっとしながら彼を温かく見送った。
“若者よ、デリカシーを持て”
さてと「閉」を押す。
ガチャコンと閉じる扉。ヒールの足音。ん?閉じてゆく扉。女性の声。あっ。

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