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桜と僕と…

[510]  ゆうこ  2008-03-04投稿

桜が嫌いだった。

うす紅色の花が雪みたいに降りそそいで僕のアパートに入り込むから。

安アパートに一人暮らしの僕は、それでもまめに布団なんか干したり。
そんな時でも桜は、お構いなしに飛んでくるから…帰って来たら家中花の絨毯で。
掃除、バイト、洗濯、料理、バイト、掃除って具合に、「掃除」の割合が増えてしまう。

目下自腹で編み戸を検討するけど…布団、干せなくなるしね。

だから、桜が嫌いだ。

そんなとき、僕は布団についた桜をはたいて、その手を止めた。

彼女も僕を見ていた。

ビンテージジーンズを履いて、ガム噛んで、髪はまっ茶色で、柄悪い…のに、僕は見てしまった。
綺麗な、二つのアーモンドみたいな目。
キラキラ光って、まるで…。

「なに見てんの」
って言うから、つい
「桜」
ってさ。君を見てる、なんて言えるわけない。

「ふぅん」
彼女のガムが、フーセンになって、しぼんだ。

「そこから眺めっていいわけ?」

僕は頷いた。
マヌケなくらい強く。

それからしばらくして、彼女は、僕の

「彼女」になった。


それから、また春。

僕は編み戸を買った。
桜の花びらはもう入らないけど、彼女がいる。

桜より部屋を散らかす僕の彼女。

僕は前より桜が嫌いじゃなくなった。


桜の絨毯は、それなりに綺麗だったけど、僕はもっと綺麗なものを手に入れた。

二つの光るアーモンド。
僕は桜が嫌いじゃない。
きっと…そのうち…

好きになるだろう。

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