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ひとを殺したい 5

[792]  ゆうこ  2008-04-26投稿



始めから愚かだったのは僕。


彼女が泡を吹いたとき、怖くなったのは僕。


眠れない夜に、わからない不安と苛立ちに振り回されていたのは僕。


誰でもない。
「孤独」を抱えたのは僕のせい。

真っすぐで、力強い彼女の目が、心が、僕に教えてくれた。


泣きながら笑う僕に、彼女はキョトン、としてそれから言った。




お兄さんのことは言わないから、安心して。


いいよ。僕は別に…



ううん。帰れるなら私はいいの。お兄さん、ありがとう。
わかってくれて、ありがとう。



さよなら。



お兄さん、もうこんな事しちゃダメだよ?
じゃあさようなら。
お腹ペコペコ。






走って消えていく彼女の後ろ姿に向かって、僕はまだ笑っていた。







ねえ、聞いた?



何を?



ほら、行方不明になってた女の子、見つかったのよ。



……うん。



開きっぱなしになってたマンホールに落ちて、まる二日気を失っていたんですって。
信じられる?



………ふぅん…。




良かったわよね?
落ちたのがあなただったらと思うと…本当に…いいえ、とにかく、見つかって良かったわ。



………うん。



あら?どうしたの…泣いてるの?






ううん。






ねぇ、お母さん。







なあに?




僕はまだ八歳だよね?



そうよ?






まだ…間に合うかな?





そう言って、涙目になった息子の肩を、私は抱きました。
何故かそうするのが相応しい気がして。
この子は何か変わったのかもしれない、と思ったのです。









以上が、僕の過去だよ。
いつか誰かに伝えたいと思っていた。



あの頃の僕は、自分のなかの何かに押し潰されて息が出来なかった。

けれど彼女との出会いで…僕は気付いた。


孤独は、人を傷つけることで癒されたりは絶対にしないと。



だから、僕はこれを書く…彼女も協力してくれたよ。


二十歳になった彼女は、今も真っすぐ、自分の夢に向かっている。


僕は君と結婚したい。

でもこの真実を受け入れてくれるかな?


答えは急がないよ。








………そうか……。










ありがとう。
















人を殺すことは……

自分の心をも殺してしまう。


気づかせてくれてありがとう。



あの日の君へ。

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