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Forgot-5

[392]  黒和  2008-05-05投稿
月日は飛ぶように過ぎた。いや、実際にほとんど省かれていたのだが、彼はそのことに気付かない。
前述した通り、普通は夢に疑問を抱かないのだ。亡くなった母親の存在に気付いただけでも、彼にとって奇跡に近い。


そして彼は、あの日が近づいているのを感じた。


ある時、突然母親は入院した。父親と医者は「検査入院だから、大丈夫だよ。」と言った。
だが、彼は知っている。この半年ほど先の母親の運命を。


そして、彼は決意した。母親に全てを話そうと。
その上で、今度こそちゃんと別れを告げたい。

余命を相手に告げるのは、ある意味、良いことではない。それは、死刑宣告のようなものだ。
それでも、と彼は考える。何も言わずにはいられない。
サヨナラも言えないなんて…もう、嫌だったんだ。

そう、これは彼のエゴだ。彼は自分勝手なエゴイストだ。
彼は彼自身のために、母親に全てを話そうとした。

明くる日、彼は家族と共に病院に向かった。病院には片道50分はかかる。
休日にしか行けないはずなのだが…夏休みだったのだろうか?
家族は少し疲れた顔をしている(彼にはそう見えた)
往復だけでも一苦労なのだ。無理もないだろう。

幼かったせいか病院は やたらと大きく見えた。
巨大な建物で、病室は百以上あったのではないか?
彼の母親はその白い巨塔の部屋の一つに居た。

自分の運命も知らずに、だ。

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