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朝野と夢野──本来の自分──4

[340]  京野一芽  2008-05-10投稿
あまりにも部屋の中で鬱屈(うっくつ)していると表情も何も曇ってしまうので、ぼくは時折窓から景色をのぞき見るようにしている。
残照も月も星も消えた夜からは、耳を澄ませば悲哀を感じさせる物静かな雨音がいつでも聞こえてくるような気がする。
けれども風──時を含み持ち、自身が流れることでもってそれを流し、またその連鎖で水をも流すもの──が吹いていることでなんとか気晴らしにはなる。
視線は、いつしか点いた蛍光灯の白い光に照らし出されたアスファルトに向いて、それからその上で、記憶の底に押し込められている自分の影に似た、輪郭線をなぞり書きにした。と、そう思うまもなくぼくの感覚はそれに移っていて、冷ややかな夜気が吹き付けてくるのを感じた。懐かしい、幼年時代の夏休み、勢いよく川に飛び込んだ記憶がまざまざと呼び起こされ、気が晴れるというよりもむしろ、心に溜まった澱が急流に浚(さら)われるかのようだ。

以前にも通った覚えのある道を歩いている。そこはたしか、国道から少し脇へ逸れたところだ。
ひっそりとした路地の左右に沿って中小企業の低い建物が立ち並んでいて、しかし傾いた日の光の中ではどの会社の門も閉じられている。
前に歩いたときはいつだったか、時期はよく思い出せないけれども、厳(いか)めしくて冷ややかで錆(さ)び付いている門の様子は昔とほとんど変わっていないようだ。
今度もやっぱり近寄りがたい雰囲気がある。そうしておれに、ふたたび不安な気持ちを抱かせる。

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