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睡蓮の咲く頃1

[434]  蓮音  2008-06-07投稿
彼は買ったばかりのスポーツカーを飛ばし、まるで子供のようにはしゃいでいた。どんどん標高が高くなる山道、辛うじて端っこについているカードレールの下は、お決まりの断崖絶壁。彼はそれもちょっとしたスパイスとしか思っていないのか、スピードを緩める気はないらしい。もし事故ったら、この下の川に流されて終わり。水は冷たいのかな。窓の外を見ながら私はそんなことを思っていた。
「もう少しで着くよ」
浮かれ気分の彼がやっと私に話仕掛けた。
「どうした?気分でも悪いの?」
今の私にその質問はないだろ。全くKYな男。
「・・・別に」
「だったらもっと楽しそうな顔しなよ、レナちゃん」
私は軽くため息をついた。全くどうしてこんな男を愛してしまったんだろう。時々自分が憎らしくなる。
「幸一は楽しそうね。(こっちの気も知らないで)」
つい嫌味っぽくなってしまう。
「レナが誘ったんだろ?まあ、そんな眉間に皺よせないで」
私より10歳も年上の幸一、なのに時々見せる子供っぽさも本当は嫌いじゃない。彼に追い付きたくてずっと背伸びしてきた。そしたら、いつの間にかそれが当たり前になってしまった。今さら、素の自分がどうだったかなんてことすら忘れてしまった。
「あれ?・・・なんか眠気が」
「大丈夫?」
「ああ、もう少しだし」「幸一?」
「ずっと、山道だったから、疲れがきたのかも」「新車にはしゃぎ過ぎたからでしょ?」
「・・・あはは、そうか・・・」
幸一の瞼がゆっくりと閉じる。そして、またそれに反発するようにうっすらと開くが、首がカクン前にもたれ始める。私はただそれを冷静に見つめていた。
「幸一・・・(ごめんね)」
幸一の肩に私は顔をもたれ掛けた。さっき立ち寄ったコンビニで、幸一がトイレを済ませている間に、ペットボトルのお茶に睡眠薬を混ぜた。うちの父が開業医だから睡眠薬は簡単に手に入った。やっとこの人が私のものになる。そう思うと、不思議と心が穏やかになる。これでもう私は幸せになれる。幸一の腕に自分の腕を絡ませ、目を閉じるようとしたその時、
「ひ、人!!!」
私は幸一を思いっきり叩きながら叫んだ。
「え?あ?」
とっさに私は幸一の右足を持ち上げ、思いっきりブレーキへ押し付けた。とっさに覚醒した幸一がサイドブレーキを思いっきり引いた。車はすごいカナキリ声を上げて止まった。

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