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コドモノウタ2

[601]  ゆうこ  2008-06-10投稿

血飛沫のなかに佇んで…僕はぼんやりしていた。体中を染め上げた血液は温かくて、ねっとりと僕にへばり付く。

僕の耳に、誰かの甲高い叫び声が届き…それが僕に向けられたものだと気付くより早く、僕は車内の床に突き倒され、羽交い締めにされていた。


屈強な若者がのしかかり息ができない。
悲鳴はさらに大きさを増していき、沸いたヤカンのたてる音のように聞こえた。
その時、別の誰かが僕の右手に握られていた業務用のカッターを蹴り飛ばし、僕は痛みに悲鳴をあげた。

回転しながら滑っていくカッターは、赤く光っていた。

騒然とした車内で、それは微動だにしない影の足元で止まった。


赤い肉塊。

そいつは僕から数歩離れた場所から、見下ろしている。

僕にこんなことをさせた張本人は、あいつだ。

僕は必死になって影を仰ぎ見る…。

肉塊は唇のない口を開き目のない視線で僕を見つめた。


ぼ くの なまえ
し って いる?

歌うように語りかける。奴の声が聞こえた瞬間、周りの音が消えた。

僕と奴しかいない車内。

誰なんだ?お前、なんでこんな…


ぼく の名前は
きみ と同じ。僕は君。あの時僕は君に呼ばれ現れた。


何を言ってるんだ。


肉がうごめき、形を変えていく…。


僕は虚無。
君のなかにある虚構。
君から生まれ、君は僕と同体。


違う!僕はこんな…


君は弱い。僕なしには全てをやり遂げられなかった。
君は全てを壊したかった世の中の輝くもの、全てを嫌っていた。
君は虚無さ。
僕と同じ。


違う…僕は…考えただけだ。僕のせいじゃない



肉塊は僕の顔になり笑った。



ぼくの名は虚無。

僕の名は僕。

ぼくの名は…殺意。









今日、JR東海道線車内において無差別殺傷事件が起こりました…被害者は十人以上、死者は六人……なお犯人は…錯乱している模様…警察は引き続き動機の解明を……






赤い肉塊は人込みを擦り抜けていく。
人々の多くは気付きもしない。
だが、会社帰りのOLが足を留め…振り返った瞬間

肉塊は歩みをとめ

彼女へと向かって行った

唇のない口を歪め、目のない視線を彼女へ向け


笑っていた。






僕は君

君の殺意







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