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箱のなか 10

[521]  ゆうこ  2008-06-12投稿

アズサは、笑った。

それは低い声から甲高く耳障りな声になり…暗闇を切り裂いた。

「アズサ…」

雅也の延ばした手をアズサは振り払った。

「アズ、おい…しっかりしろよ…」

アズサは笑い…突如、口を閉じた。

そして、ゆっくりと部屋を横切り……暗闇に消えた。




「…嘘…いや、冗談よ…ね、亮…」

香月の途切れ途切れの呟きに、亮は我に返る。

「大変だ…香月、雅也、ここにいろ!アズを…連れ戻す!」

「いや、僕が行く!…アズサは僕の…彼女だからさ」

雅也は亮と香月に微笑み懐中電灯片手に走って行ってしまった。

残された二人は蒼白な面持ちで、呆然と立ち尽くしていた。

「今まで…ミスオカ倶楽部やってた時、本当に怖い目にあったことってあるのか?」

亮に唐突に聞かれ、香月は首を傾げた。

「なかった…と思う。気持ち悪いって事くらいはあったけど、今みたいな事は…」

亮は香月の震える唇に気付き、たまらなくなって香月を抱きしめた。
冷たい頬に手の平を当て強く言う。

「大丈夫だから。雅也が連れて来てくれる。きっといつものアズの悪戯、悪ふざけ…」

亮の言葉が掻き消えた。
長く尾をひく叫び声。

「い、今の…」
香月の両目が恐怖で見開いた。

「雅也…!香月、行くぞ…しっかりしろ!」

亮は香月の手を取った。香月は小さく、だがハッキリと答えた。

「行こう!二人を探さないと」




遠く離れた場所から、未だに響く苦悶の叫び。
二人は時折つまづき、放置された椅子や鉢にぶつかりながら、小さくなっていく声を辿った。

亮がふと香月の手を引き寄せ、止まらせる。

「おい…ここ」

亮の足元に明かりが落とされ、香月は息を飲んだ
そこはなにかでべっとりと濡れていた。
亮はゆっくりとソレが真横の戸に続いているのを確認する。
「嫌だ…亮…」

亮は屈み込み、指でぬめりを拭う。
電灯で間近に照らし、ソレが畏れていたもの…血液である事を知った。

血溜まり。
引きずられた跡。

病室の取っ手が真っ赤に染まっている。

香月は喉が異様に渇いているのに気付いた。
亮の息を吐く音。
夢のなかのような奇妙な感覚のなか、亮が取っ手を静かに開いた……。



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