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さまよう犬

[483]  ごめんなさい  2008-07-05投稿
犬の夢を見る。
これだけなら、夢占いに熱中している人は別として、特にどうと言う事も無い。
しかし、その若い女の場合は違っていた。
度々その夢を見るのだったし、
また、現れる犬がいつも同じだったのだから。

その犬は、広い野原や静かな水辺を、宛もなく淋しげにさまよっている。時には、いらいらした表情を示す事もあったし、急ぎ足でかけているときもあった。その動作には、何かを求めて探し回っているような感じがあった。

最初のうち、女はちょっとこわかった。訳も分からない犬が、
何故こう度々夢に出て来るのか、不思議でならなかったのだ。

しかし、日が経つに連れ彼女はその犬が好きになりはじめた。
何を探しているのかは分からないが、出来るものなら手伝ってやりたいような、なぐさめてあげたいようなきもちになったからだ。

夢の中で、彼女は呼び掛けてみたり、手招きしたりしてみる。
だが犬はそれに気付くことなく、やはり何かを探して歩き続けている。彼女は焦りに似た感情を覚え、それは目が覚めてからも残るのだった。

やがて彼女は、恋をし、結婚した。

それと共に、あの犬は夢に現れなくなった。何故消えてしまったのかしら、と思うこともあったが、それ以上には考えなかった。現実の幸福の中ではもうそんな事はどうでもよくなったのだから。

そんなある日、夫が何気なく言った。
「変な話だけど、僕、結婚前には、妙な夢をよく見たものだったよ。それがこのところ、ちっとも見なくなってしまった」
「それ、どんな夢だったの」
話したら笑われるような夢さ。
自分が一匹の犬になって、広い野原を何かを求めてさまよっているんだ………」

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