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井上の憂鬱Final

[529]  坂崎金太  2008-07-11投稿
三月になって間もない頃、俺と井上はファーストフード店ではしゃいでいた。
「今日は俺がおごってやる!」
そう言って、俺は色々なものを注文した。今日はパーティーだ。
「ありがとうな……俺のためにこんな……」
俺の知人で後輩である井上は、珍しく感慨深くなっていた。
「いいんだよ、お前が東大受かったんだ。俺が何もしないでいられるか!」
そうだ。受かったんだ、東大に。
正直、あり得ないと思った。
こいつはどうしようもなく馬鹿で、このファーストフード店でいろんな迷惑をかけていた。俺はその迷惑に巻き込まれていた。
でも、今になっては懐かしい話だ。何せこいつはもう、東大に通う天才なんだから。
「いやぁ、まさかお前が受かるなんてなあ。未だに信じられねえよ」
「お前は何でもできる!そうお前に言われたからできたんだ」
「ははは、そうか。冗談だったのにな」
……いつからだろうか、こんな風に笑わなくなったのは。
昔は、こんな風に無邪気に笑っていたのに。
「そうか……あの頃は俺も馬鹿だったんだ」
井上は馬鹿だから、俺がきちんとしなきゃって思っていた。だから、俺は成長して井上を引っ張った。井上はそんな俺に頼っていたから、いつまでも馬鹿だったんだ。
「ごめんな、井上」
こいつはやっぱり俺の……。
…………。
「……何してんだ?」
いつか見たようなポーズで、遊具の中に入っている。
「抜けなくなった」
なんだよこいつは。
うつ伏せで、遊具の中に寝ているこの馬鹿は、一体なんだったか。
「抜けなくなった」
……そうか。そうだ、こいつが井上なんだ。
――そして、俺の弟なんだ。
「二回も言うな。で、理由はなんだったっけ?」
井上は、弟は答えないまま、自力で抜け出して……また入って行った。
「やっほう」
言った。笑って言った。
「やっほう」
笑って言ったから、笑って言い返してやった。
「俺は気づいたぜい」
お前が今から叫ぶ言葉は知っている。
だから――、
「――うつ伏せで入ると抜けなくなるんだな?井上」
意地悪いだろ?叫ばせないぜ、その言葉は。
井上は笑っている。
「ああ、そうだ。よく覚えていたな?井上」
俺も、笑っている。
「まぁ、とりあえず頑張れよ?東大」
「……ああ、やってやるぜ」


――井上は俺の知人で後輩で俺の弟で、かなり馬鹿な東大生だ。



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