星の蒼さは 98 第七話外伝 アキとルナ
アキ・シラユキがこの世に生を受けたのは今から十七年前。
月への移住は既に完了し、人々は混乱を乗り越えて新しい発展の為に汗を流し始め、その経済成長率が一時期の中国を上回った頃だった。
住みかこそ集合住宅だったが、アキの家庭は高度経済成長が生み出す偽りの富に浸かり、それなりに豊かだった。
若かったアキの母親は死に物狂いで働く父親をよそに毎晩ディスコに通っては男をさらって連れ込んだ。
しかし、いい気分で部屋に入ってきた男は絵を描いているアキを見て決まってこう言う。
なんだ、お前ガキがいるのか
たいていの男はそれを知ると酔いを覚まして帰っていく。
中には「結構可愛いじゃん」と近づいてくる男もいたが、アキの母親はそれだけは許さなかった。
享楽的な母親だったが、アキは常に母親の愛を感じて生きていた。
夜中にヘトヘトになって帰ってくる父親と、何食わぬ顔で良妻を演じる母親。
一見すると崩壊間際の家族だが、不思議とうまくいっていた。
アキは母親のこの何食わぬ顔が好きだった。
母親の愛が本当は父にのみ向けられていると知っていたからかもしれない。
床につくのは夜中の二時。次の朝七時に家を出る父親と、早くも明日連れ込む男の顔を想像する母親。
右手を母の柔らかい手が握り、左手を父の硬い手が包む。
この二人に挟まれて寝るのが至福の時だった。
この頃からである。
アキに〔色〕が見え始めたのは。
最初は暗い部屋の中で、二人の胸の辺り光って見える程度だったが、少しずつ色は強くなり、小学校にあがる位には、アキは二人から明確に〔色〕を感じるようになった。
そして道行く人からも〔色〕を感じるようになった時、アキはとうとう怖くなって母にせがんで病院に行った。
医師は必死なアキの話を笑って聞いていたが、
「〔色〕が見える」
とアキが言った辺りから顔色を変え始め、看護師に何か耳打ちし、何故か電話帳を引っ張り出してきて、どこかに連絡をとった。
いよいよ顔色を変えた二人に気付いた医師は、
「風邪です」
と、信じられないような事を言った挙げ句、
と言いだし、
「今日はお帰りください」
と、二人を追い出した。
心配で食事も喉を通らないアキに対し、母親は優しく
「大丈夫。なんてったってあたしの娘だからね。あんたは」
とアキの額にキスをした。
その翌日。
月への移住は既に完了し、人々は混乱を乗り越えて新しい発展の為に汗を流し始め、その経済成長率が一時期の中国を上回った頃だった。
住みかこそ集合住宅だったが、アキの家庭は高度経済成長が生み出す偽りの富に浸かり、それなりに豊かだった。
若かったアキの母親は死に物狂いで働く父親をよそに毎晩ディスコに通っては男をさらって連れ込んだ。
しかし、いい気分で部屋に入ってきた男は絵を描いているアキを見て決まってこう言う。
なんだ、お前ガキがいるのか
たいていの男はそれを知ると酔いを覚まして帰っていく。
中には「結構可愛いじゃん」と近づいてくる男もいたが、アキの母親はそれだけは許さなかった。
享楽的な母親だったが、アキは常に母親の愛を感じて生きていた。
夜中にヘトヘトになって帰ってくる父親と、何食わぬ顔で良妻を演じる母親。
一見すると崩壊間際の家族だが、不思議とうまくいっていた。
アキは母親のこの何食わぬ顔が好きだった。
母親の愛が本当は父にのみ向けられていると知っていたからかもしれない。
床につくのは夜中の二時。次の朝七時に家を出る父親と、早くも明日連れ込む男の顔を想像する母親。
右手を母の柔らかい手が握り、左手を父の硬い手が包む。
この二人に挟まれて寝るのが至福の時だった。
この頃からである。
アキに〔色〕が見え始めたのは。
最初は暗い部屋の中で、二人の胸の辺り光って見える程度だったが、少しずつ色は強くなり、小学校にあがる位には、アキは二人から明確に〔色〕を感じるようになった。
そして道行く人からも〔色〕を感じるようになった時、アキはとうとう怖くなって母にせがんで病院に行った。
医師は必死なアキの話を笑って聞いていたが、
「〔色〕が見える」
とアキが言った辺りから顔色を変え始め、看護師に何か耳打ちし、何故か電話帳を引っ張り出してきて、どこかに連絡をとった。
いよいよ顔色を変えた二人に気付いた医師は、
「風邪です」
と、信じられないような事を言った挙げ句、
と言いだし、
「今日はお帰りください」
と、二人を追い出した。
心配で食事も喉を通らないアキに対し、母親は優しく
「大丈夫。なんてったってあたしの娘だからね。あんたは」
とアキの額にキスをした。
その翌日。
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