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記憶を消す薬

[760]  黒風呂  2008-07-25投稿
その男は7歳の娘と2人で暮らしていた。小さなアパートで2人暮らし。
娘が4歳のときだ、その男の妻は亡くなった。原因不明の死だ。そして四歳の娘にそれを伝えたとき、その男はこの娘を命に変えても守ろうと誓った。

ある日その男の勤め先が倒産した。その男は酒をやめなくなった。七歳の娘はそんな父を嫌っていた。
その男はそんな娘の態度に腹をたてるようになっていた。

一月がすぎた頃。そのアパートに娘の姿は無くなっていた。
あったのは殺意をもった男と、七歳の娘の死体。
父が娘を殺害した現場だった。
その男は泣くこともせず、すっきりとした顔をしていた。まるで殺すことに正義を感じるように。
男は娘の死体をを段ボールに入れ、車へとはこんだ。
車で向かった先は、近くの山の森の中。
その男は車をとめると段ボールを投げ捨てた。
そのとき、その男にある物が見えた。娘の段ボールとは別に別の段ボールも捨てられている。
その男は思った。
『世の中狭いな』と。
どうやらあの段ボールもなんらかのために捨てられたものだと思ったらしい。
そしてその男はひとことのこして森をさっていった。
『あやこ。お前が先に死ぬから娘がこんなことなったんだ』と。あやこ、それは死んだ妻の名前だった。

しかし半年もたたないうちだった。その男が後悔と罪悪感にうなされるようになったのは。

そして男はここにきた。それは記憶を消す薬を、売るお店。
その店の老婆がいうには、薬は一部の記憶をけすことができるらしい。そしてもう一度飲めば記憶はよみがえる。
その男がこの店をみつけたのは偶然。
いやこんな店なかったはずだが。そんなことはどうでもよかった。
老婆は薬を二つすすめてきた。記憶をもどしたい時のためだと言う。
しかしその男はひとつだけその薬を買っていくことにした。

家に帰り薬をひとのみした。脳味噌がかきまわされるような痛みがおそった。
そしてその男はふらふらと車にのり森へむかった。
そうだ。段ボールはふたつだ。
『あやこ。』


その男が薬を飲むのは二回目。


記憶とは同じ過ちを犯さないための一番の良薬なのかもしれない。

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