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灰色の虹

[455]  ケィ。  2008-10-13投稿
ごく何気ない夕焼けだった。

毎日繰り返す、見飽きた茜色。
僕はこの時刻が余り好きでない。
手元の文庫本が読みにくくなる。


「お、レインボー・スカイだね」

いつの間にかそこに居た友人は、空を見て、面白そうにそう云った。

僕はちょっと顔を上げて見る。

ブルー・イエロー・オレンジ。ピンクもある。
光のスペクトルの描く、グラデーション。

「確かに色々混じっているようだが、虹とは違うだろう」

僕の指摘に、彼はほんの僅かに戸惑ったように片方の眉を上げた。

「そうかい?」

「そうさ」

「おかしいなぁ。今日はまるで虹のようだと思ったのだけど」

僕らは改めて空を見上げた。
ただ夕日が静かに沈むばかりだった。


彼が実は色盲であったと知ったのは、それからずっと経ってからの事だった。

彼にとって世界は、灰色の濃淡で構成されるらしい。

彼はそれを、誰にも話さなかった。
彼自身、おかしいと思いつつ、何がおかしいのかよく分からなかった為らしい。

迂濶な彼らしかった。

今日、久々に夕日を見上げて、その出来事を思い出した。

僕の前にはやはり、いつも通りの茜色が展がるばかりである。


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