携帯小説!(スマートフォン版)

トップページ >> ホラー >> ビデオ 〜前編〜

ビデオ 〜前編〜

[1056]  ゆうこ  2008-12-12投稿
「私には何故だかわかりません」

ビデオテープから聞こえてきた細く無機質な女の声。
抑揚がなく、コンピュータで合成されたかのような声だ。

画面は時折、稲妻のような光が走るだけで真っ暗なまま。

俺は後悔していた。

取材で行った樹海に、コレは落ちていた。
年末にやる特番で「自殺する若者」を追うという有りがちな収録だ。

しかし実際の樹海は予想より遥かに薄気味悪く、枝にぶら下がった朽ちたロープを目の当たりにするとスタッフの表情も険しくなった。

自殺者のものと思われる遺留品をビニールに入れ警察に届けたところまでで番組は終わる。
勿論、仕込みの若者との対談や追跡などを盛り込む予定だ…だが、俺は遺留品の中から、コレをこっそり持ち出してしまった。

DVDに慣れた目でみると無骨に映るVHSのテープ…黒いその姿は強烈な存在感を放っている。

俺は無意識に鞄に突っ込んでいた。
警察に届ける役割を進んで引き受け、他のスタッフにテープを提出していないことを気付かせないようにさえした。

何故そこまで惹かれたのかわからない。

そんな気持ちを代弁するかのようにテープのなかの女は

「私には何故だかわかりません」

と繰り返す。

背筋に這い登る不安は、これ以上見ることを拒絶しているにも関わらず、俺は画面から目を離せない。


瞬くような暗い画面に、突如変化が起こった。


暗闇は掻き消され、画面いっぱいに現れたのは、悪夢のように醜い女だった。

異様に大きな口、剥き出された歯、小さな鼻、そしてなにより異様な両目…。顔から盛り上がるように迫り出した目。
死んだ生き物のように輝きを失い、左右違う方向を見ている。

女の口が動き、歪む。

「私には何故だかわかりません」

女のいびつに生えた歯は黄色く濁り、言葉を押し出す度に別の生物のように見える。

俺は、女を凝視し続けた
喉は張り付いたように渇いていた。





後半へつづく

感想

感想はありません。

「 ゆうこ 」の携帯小説

ホラーの新着携帯小説

利用規約 - サイトマップ - 運営団体
© TagajoTown 管理人のメールアドレス