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ころしてください。

[766]  睦月  2008-12-15投稿
殺し屋は目をわずかに開いた。

―これはめずらしい殺しの依頼だ。

目の前にいるのは、ひとりの痩せこけた、中年の男。くたびれた灰色のどぶ鼠色といわれるスーツと、曲がったネクタイ。なんとも薄幸そうな面構えだ。

「あんたにこれが殺せるかい」

男がにやりと、皮肉に頬笑んだ。殺し屋が、男の態度に少し苦笑いした。

「私に殺せないものはありませんよ。安心してください、依頼はこなします」
「そうですか。では、依頼料は指定された口座に振込んでおきます。」
「はい、わかりました」

きぃ、と立て付けの悪い戸をあけた。
蛍光灯の光が、薄暗い店内を照らした。ちらちらと、蛍光灯に集まる蛾が目に入った。

「御依頼人」

静かに、殺し屋が声をかけた。男が立ち止まる。

「あなたのように、やさしい依頼は初めてです。…私は、うまれてこの方、こんな優しい殺しを依頼されたことがありません。」
「…」

男はここに来て、初めてうれしそうに、照れたように笑ってみせた。

「お願いしますね」

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