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帰って来た母さん(後)

[1183]  ぐうりんぼ  2009-01-29投稿
 家では、親父がテレビを観ている。

 親父の奴、俺の顔見るなり、変な質問をした。

「どこかに寄って来たのか? 随分と遅かったじゃないか?」

「俺は父さんに電話した後、タクシーでまっすぐ帰って来ただけだけど」

「それにしちゃあ、遅いじゃないか」

「遅くないよ。病院を出て家に着くまでの時間は約15分。結構、速いハズだよ」

「ふーん、そうかァ」

「どうかしたの?
 親父、変な事を訊くけど」

「お前が母さんより、帰って来るのが遅いから気になってたんだよ」

「訳わかんねえよ!
 集中治療室にいる母さんが、何でウチに帰って来れるんだよ!?
 脳がやられて植物人間みたいになって人が、1人で歩いて来られるハズないだろう!?
 父さん、夢でも見てるんじゃないのッ!?」

 すると…

「祐介、何をゴチャゴチャ騒いでいるの?」 

「え?」

 俺は思わず、耳を疑った。

 背筋がゾォーッと寒くなる。

 今の女の声…

 母さんの声だ。

 しかも、誰もいないハズの風呂場から聞こえて来る。

 ザバーッ!

 ガタゴトン!

 湯船から上がった時のお湯の音と…

 浴槽のフタを閉める音だ!

「祐介ゴメーン!
 バスタオル持って来て!」

 母さんからの呼びかけに俺は震えながら返事した。

「ま、待ってて! すぐ持って来るから!」 

 電話が鳴った。

「俺が出る」


 玄関の電話口に出る親父。

 俺はバスタオル持って、風呂場へ行ってみた。

「!?」

 脱衣場に来た時、俺は我が眼を疑った。

 そこに、母さんの裸体の後ろ姿があったからだ。

「か、母さん…、持って来たよ」

「ゴメンゴメン! 前のタオルが濡れていたから」

 俺の方にゆっくり振り向いた母さん。

「う、ウワーッ!」

 俺は思わず、悲鳴を上げた。

「いやね! 大きな声出してから!」

 驚く母さん。

 顔中、血だらけで眼を大きく見開いていた。

 俺は怖くなって、その場から逃げ出した。

 親父の所へ飛んで行く。

 親父は俺の顔見て、暗い表情で言った。

「母さん、5分前に…
 息を、引き取ったらしい」


終わり

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