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○●純+粋な恋●22

[415]  沖田 穂波  2009-02-05投稿

5-? 初秋の桜

細くなり棒の様になった腕が,静かに墨をする。
以前の様に純は筆を持った。

しかしどこかおかしい。
指先に力が入らない。
書こうとすると手が震えて筆が落ちる。

ー 私は,
 ここまで衰えたか。

絶望だ。
幼い頃から書の天才と言われてきた純が筆を持てなくなるなど,
今までの人生が無になったのと同じ事だ。

純は筆を置いた。

ー 私の存在理由は一体何なのだろう。

書くことの出来なくなった純は,
いつしかそんな事を考えるようになっていた。

純が2度目の吐血をしたのはそんな時だ。
今回は精神的にも参っていたのかもしれない。
1度目の時の様に,すぐに純の目は覚めない。
京太郎は,
このまま純が目覚めないのではないかと気が気ではなかった。

純が目覚めたのは,2度目の吐血から3日後だった。

『良かった,
 本当に良かった!』

京太郎は純の手を取り喜んだ。
純は,大袈裟だと京太郎に微笑んだが,すぐに深刻な顔をして言った。

『兄さん,粋乃さんを,
 呼んで下さい。』

『粋乃さんを?』

京太郎は言われるがままに,粋乃を純の元へ呼んだ。

粋乃はすぐに来た。
髪が少し乱れている。
走って来たらしい。
考えてみれば,
純から粋乃を呼ぶのは初めての事だ。

『参りました。良かった,目覚めたのですね。』

粋乃は純の部屋の襖を勢いよく開けた。
粋乃には,
病で衰えた純が静かに微笑んでいるのが見える。

『では,邪魔者は消えるとしよう。』

と,京太郎は気をきかせて席を立った。


○●続く●○

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