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モウテン

[495]  カオリ  2009-03-14投稿
 あたし、いつからここにいるんだっけ?
 たしか家で土曜八時からのお笑い番組を観てたはず。でもここはなんにもない場所。夢かな?テレビ観ててそのまま寝ちゃった?
「・・・こ!」
なんか聞こえたよね。はっきり聞こえないけどあたしが知ってる声のような気がする。どこから聞こえたんだろう。あたしは自由に動く体であたりを走り始めた。自由に体が動く時点で夢でないことが理解できた。
 見つけるのに苦労はしなかった。少し走ると映画のスクリーンのようなものが見えてきた。そこに映っているのは黒い服を着た大勢の人たち。あんまりいいムードではないらしい。
 近づいてよく見てみるとそこに映っているのはあたしのよく知ってる顔。それも見たことあるという程度のものではなく、朝起きてから夜寝るまで目にする顔ぶれ。職場の同僚に高校からの友達、おじいちゃんとおばあちゃん、お父さんとお母さんと弟。あたしの大事な人たちが黒い服を着て悲しげな雰囲気のその場にいた。もう一人大事な人がいるけれど、その場にその人は見あたらなかった。
 「この映像はお葬式だよ」なんて誰かに説明してもらわなくても、誰かのお葬式が映しだされていることくらいすぐにわかった。そして誰のお葬式なのかもなんとなく察しがついた。
 あたしのお葬式は最後のお別れの場面。さっき聞こえた知ってるような声は、お父さんのあたしを呼ぶ声だった。普段はどっしり構えて感情を表に出さないお父さんが、スクリーンの中ではあたしの名前を泣き叫んでいた。お母さんも崩れるように泣いていて、弟はそれを支えながらも涙を流してくれていた。
 あたしは自分のお葬式を観ながら涙を流していた。家族、友達が悲しんでいるのがつらかった。生きてるときは家族や友達にストレートに愛情を表現しなかったけど、特に家族のことはとても愛していた。その家族が悲しんでいる。涙が止まらなかった。決して自分が死んだことにショックで流した涙ではなかった。
 あたしは不思議と死の受容ができていた。まるでニュースで有名人の葬儀が流れるのを観るように自分のお葬式を観ていた。映像はカットされることもなく火葬場の煙があがって終了した。
 さて今からどうしよう。というのがあたしの気持ち。意識があるってことは何かしなきゃいけないのかな。確かに疑問に残ることは今の状況を含めたくさんある。
 でも今はただタバコが吸いたい。

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