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航宙機動部隊前史後編・39

[569]  まっかつ  2009-03-18投稿
この宗教界の闘争は、実にシンプルに《大リンチ》と名付けられた。
幸いながら、この様な時に備えて同界は、非常回路を用意してはいた。
現存する限りでは人類で最も歴史ある王族―地球時代末期に元々多様な諸宗派・教義・戒律・価値体系を統合し、争いを終止させ、一つの宗教界を現出せしめたのは、この王族の働きが無くては不可能だった。
そして彼等は、与えられた総法皇の位を自ら辞退して、以後同界に留まりながらも身分を隠し、飽くまで聖職者の一員として見守る道を選んだのだ。

その《照覧者の一族》が、昔からの約束に従い、再びその姿を現したのだ。
彼等はしかし、全員がフードを被り、名前も名乗らずに性別すら明らかにせずにただ自分達を数のみで呼んだ。
そのリーダー・一《ひ》は、十二人の同志達と共に彼等の証となるDNA情報と二つの秘宝を、内々に生き残った同界幹部達に見せて、最終平和思想こそ自分達の意思であり、また、宗教界の進むべき道であると説き、更に《大リンチ》の即刻停止と人類総会との和平を命じた。
これがいわゆる大聖断《グランドジャッジ》であった。

銀河元号一六一六年・滅亡寸前だった宗教界は、人類総会と太陽系で界際会議を開き、照覧者の一族の領導の下、人類の誓い一三条を受け入れ、これを根本聖典に据える事を約束した。
同時に招かれた太陽系財閥群も、最終戦争論の放棄及びそれを信仰するあらゆる勢力への資本提供を禁ずる事を誓わされた。
既に新興財閥に市場を奪われまくっていた折りであり、そこは商人らしい利ざとさで、一も二もなく彼等は承諾し、そして実に良く守った。

残るは莫大な最終兵器を始め膨大な軍事力を蓄えて捲土重来を期する旧二大超大国のみであった。
思えば、彼等の所有する軍事力こそ、最終戦争論の具体的かつ究極の拠り所であり、最終平和を希求する以上、その解体ないし撃滅は避けては通れない道であったのだ。
だが、人類総会側がどれだけ優勢であっても、相手に最終兵器ある限り、迂濶には手は出せない状況であった。
戦闘・テロ・外交交渉―どれを取っても最終兵器を所有する側がいつでも最高のカードを切れる。
この場合、正義も理念も人々の支持も利点所か帰って足枷にすらなる。
敵と同じ最終兵器に頼ってしまっては、それは人類総会の敗北を意味するからだ!

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