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裏切り〈1〉

[712]  夏姫  2009-04-21投稿
――序章――

あれは、激しい雨の降る日だった。
ずぶ濡れになって家に走って帰り、あの人からの電話を待っていた。
向こうの大会も終わり、今日こそ話せる!と、楽しみにしていた日であった。
少し遅めの夜食をつつきながら、落ちつかなげな素振りをしていた。
(遅いなぁ…。何してんだろ。いつもなら、とっくに…)
Prrrrrrr――.
「!」
待ちに待った着信音が部屋に鳴り響く。私は夢中で受話器を掴んだ。
「はい」
『あー、百合?』
この声は紛れもない、大好きな紫苑の声だ。
「うんっ。どうしたの?遅かったね」
『あぁ、ちょっとな…』
いつになくはっきりしない紫苑の態度に、私は軽い不安を覚えた。
「…どうしたの?」
私は、恐々尋ねた。
『…あのさ、百合。…別れないか?』
「何で?」
そう尋ねる自分の声は、震えていないだろうか。
まさか、紫苑がそんなことを言ってくるなんて…。
『何でって…』
言い淀む紫苑。沈黙する私。
「…いいよ。分かった。」
答えてくれそうにない気配を感じとって、私はそう言った。
『ごめん』
その一言で、会話は終了した。

それから、一年の月日が流れた。

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