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○●純+粋な恋拾遺●3

[516]  沖田 穂波  2009-04-22投稿

1-3 こころ憂し

「分かっています。
でも,これだけは言わせて下さい。」

春子は真っ直ぐに女中を見た。

「粋乃ちゃんは子供です。もっと,自由にしてあげて下さい。
家を抜け出したのは,
自由になりたかったからなんですよ。」

「あなたに,
お嬢様の何が分かると言うのですか。偉そうに。」

「分かりますよ。
私にも粋乃ちゃんと同じ年頃の息子が2人もいるんですから。」

春子は必死に訴えるが,
なおも女中は言い張る。

「お嬢様は階堂のルールに従っているだけです。
あなたには,関係ありません。」

すると春子は,恐ろしく冷酷な目をした。

「なら,粋乃ちゃんは階堂と言う家に殺される。
それで良いのなら,私はもう知りませんよ。」

と,大股に歩き出し,
元来た道を行ってしまった。
女中はそんな春子の背中を見ながらただ呆然と立ち尽くしていた。


粋乃の目はとっくに覚めていた。
春子と女中の口論を聞いていたのだ。

粋乃にとって,
春子の様に,
こんなにも自分の気持ちを理解してくれている人は初めてだった。
そんな春子が常に気になる存在となったのは,
もちろんこの日の出来事からだった。

春子の噂は,
会わなくとも何故か粋乃の耳によく入ってきた。
近所の人と取っ組み合いの喧嘩をした。
とか,強盗をあっさり捕まえた。
とか。

本当に愉快。そして,
強い人だ。
春子の噂を聞く度に粋乃は嬉しくなった。
こんな人になりたいと,
いつしか憧れをも抱くようになっていた。

しかし,
そんな春子の噂が,
ある日ぱったりと途絶えたのだ。


●●続く●●


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