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噛まれる女

[877]  ピロリ  2009-05-15投稿
「彼と別れたの」
コーヒーを飲みながらIはさらっと言った。
「えっ!いつ?」
O代は驚いて聞き返した。
「前の日曜だよ。別れてってお願いしたの。」
Iは怪訝な顔をしてコーヒーを啜った。
「ふぇ〜。あんなに仲良かったのに。わかんないもんだね〜」
呆れたようにO代は言い放った。
「だってヤキモチや束縛も激しくていつも監視されてるみたいだったから…それにね…噛むの」
「え?」
「だから…噛み付いてくるのよ。ほら。」
Iは腕を見せると丸い痣を指差した。
歯型がある。
「俺のだって証だからって噛み付いてくるの。」
O代は目を丸くしている。
「だから…別れたのよ…」
Iは下を向いたまま呟いた。

何日かたったある夜。
Iはチクッとした感触に目を覚ました。
起きて見てみると小さいながら歯型のような痕がついていた。
それから毎日のように眠りにつくと必ず何かに噛まれた痕が残るようになった。

気味が悪くなりIはO代に相談した。
「U君の生き霊みたいなものじゃないの?
御祓いいったほうがよくない?」
O代も小さな噛み傷を見て身震いしている。
IはO代の言葉を聞き不安そうだ。

「わ〜かった!
来週の始めについていくから御祓いしてもらお! それまで私がIの家に泊まってあげる!」
O代の言葉にIはホッとしたように微笑んだ。

O代が泊まって四日目の夜がきた。
「私今日起きててみる。」
O代は力強く言った。
「とりあえず何が噛み付いてるのか見ないと。
こんな小さな歯型がU君本人のはずないし。
気になるじゃない。」
「でも…危なくない?」
心配するIにO代は笑いながら言った。
「噛む以外の危害を加えてくるならもうしてるよ。大丈夫。」
O代の言葉にIも頷いた。

夜中カサカサと音が聞こえて来た。
何か小さな物が動いている。
O代はそっと近づきそれを紙袋で捕まえた。
「I!捕まえたよ!」
O代の声にIも跳び起きた。
袋をそっとあけると中には蜘蛛のような虫がいた。
『U君をずっと好きだった。Iだから譲ったのに別れたなんて許せない。許せない。』
歯をカチカチ鳴らしながらO代の顔をした虫は袋の中で喋り続けていた。

黙ったままO代は袋を握り潰した。

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