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猫物語その2(改)

[503]  α  2009-05-19投稿
 それにはやむにやまれぬ事情がありまして、と子猫は申します。

 実はわたくしは親のない子猫にございます。
 それで麓の町のモトドリに行商の仕事をもらって養われておりました。
 夕べは いつものように商業地区へまたたび入りマッチを売りに出たのですが、これがなかなか売れません。
 全て売り切らないことには帰れもせず、売れないマッチをただひたすらに売り続けていたのですが、あまりの寒さに耐え兼ねて売り物のマッチについつい火をともしてしまったのです。
 するとどうしたことでしょう!マッチの火の揺らめきの中に、今まで見たこともなかった暖かいコタツとその上の蜜柑やホットカーペットや38℃前後という体温に近くて飲みやすい温度に温められた白くラクトースの甘味にあふれているであろうミルクの入った清潔なお皿が見えたのです。
 わたくしはマッチの見せてくれる幻影にすっかり魅了され、もう一本また一本とマッチを擦っていきました。
 マッチが見せてくれた幻影の中にはもの心つく前に別れ別れになった父母の面影も朧げながら見えました。
 ああ、もう一度あのふわふわした毛並みに埋もれて安心しきって眠りたい。
 しかし今のわたくしには叶わぬ夢にございます。
 どんなにつらくともまたたび入りマッチを売って生きてゆかねばなりません。

 と、子猫は話ながらも涙を流し、竹内さんも哀れを誘われるのでありました。

 しかし、と子猫は申します。

 わたくしは売り物のまたたび入りマッチを あろうことか全てすっかり使い切ってしまったのです。
 これではモトドリのところへは戻れません。
 何か良い手立てはないものかと思い巡らせてはみたものの、解決策は考えつかず、またご覧のような年端もゆかない我が身では、頼れる宛てもございません。
 そうして思い惑ううち、山へ入り込んであの竹林でさ迷っておりましたが、休みなく夜の山を歩き回ったために、またマッチの煙を吸ってから何となく体が重苦しくて、たまたま見つけた竹の節に入り込み、ついうとうととしてしまっていたのです。

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