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猫物語その5(改)

[508]  α  2009-05-19投稿
 は、母上!

 あのふかふかの指の間からにゅっと出る木登りなどして丹念に研がれた細い三日月のような爪にがっちりと縫い留められた尾を、なんとか逃れようと捩りながら子雀は飛来した中年雀に叫びました。
 どうやらこの子雀の母親が我が子の窮地に文字通り飛んできたようです。
 はたして猫を相手に雀に過ぎない彼女はいったいどれほどのことができるでしょうか。

 どうか、その子の 命を存えさせてやって下さいまし。もしお助け下さるならば、どんなことでも致しましょう。
 あなた様も人間ではないならば無為に殺生をなさらないことは私どもも重々承知しております。
 しかし、その子は可愛い可愛い実の子供にございます。親は子供が何より大事にございます。もしあなた様にも御仏から全ての生きとし生くるものが賜るという慈悲の心が少しでも おありならば、どうかこの一羽の雀を哀れな、子を亡くした母親になさらないで下さいまし。

 小さな黒く艶やかな瞳から涙を流し流し訴える母雀を抜かりなく見上げながら子猫は慎重に返答します。

 なるほど確かに お前の言う事も もっともにゃ。

 子猫もまた、親子の別れは どんな形であっても生皮を剥ぐように酷いことだと知っていたのです。

 しかし、わたしも猫。一度捕らえた獲物を逃がすにゃど摂理にもとる行為は致しかねる。
 先程お前は こいつを救うためなら どんな事でもすると言ったにゃ。
 にゃらば鼠を集められるという笛吹の居所を教えてもらにょうか。

 子猫が肉裂き歯をチラチラ見せて元々は可愛いらしい顔立ちでありながら可能な限り凄み、捕らえた子雀を解放するための条件を提示したのです。

 ええ、ええ、こんな小さな雀なんかよりも だらしのない人の家に食い散らかされた肥え太るためにあるかのような食べ物ばかり食べている丸々とした鼠共をありったけ召し上がった方が宜しいに決まってます。

 母雀はせわしなく自分で自分の言ったことに頷きながら、我が子一羽の生命の危機に涙しながら嘆願していたのと同じその嘴で、見ず知らずの鼠を身代わりに仕立てようと唆かすのでした。

 無駄話なら雀同士でするが良い!わたしの気の変わらぬうちに早く笛吹の居所を教えにゃいか!

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