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猫物語その12(改)

[450]  α  2009-05-20投稿
 しかし、よくよく見るとその池は水深が浅く幅も狭いので水に浸からなくても 油断仕切って水面近くを泳ぐ蛙の一匹や二匹捕れそうでした。
 今も のんびり安心しきった蛙たちが すいすい清らかな水の中を平泳ぎしています。
 どっと疲れた子猫はわざわざ手の先を濡らしてまで蛙を捕る気には なれません。
 猫の毛は油分が少なく水を弾かない性質なので 濡れると体温を奪われ生命の危機に さらされさえするのです。
 もし雨にそぼぬれて か細く鳴いている猫さんがいたら懐に入れて温めてあげましょう。
 しかし、おてての先を少し濡らすことになったとしても、子猫は蛙を捕らえて鈴を外すよう脅迫するべきでした。
 ですが 蛙の鈴が引き寄せる惨憺たる運命をいまだ子猫は知るよしもありません。

 とんちきな蛙にかかずらわって時間を無駄にしたことを後悔しながら子猫は町へ向かって走り出します。
 まるで、夕暮れまでに帰って来られなければ竹内さんに忘れ去られてしまうかもという脅迫観念に囚われてでもいるかのように一心不乱です。

 やぶを抜けて街道に出ると町はもうすぐそこなのですが、しかしどうしたことでしょう。
 街道一面に魚がばらまかれているではありませんか。
 驚いた子猫は 耳にして間もない蛙たちの、魚が空から降ってきた話にすぐさま思い至ります。

 にゃ、にゃんと...。とんちきな蛙のたわごとかと思っていたら これはホントの出来事であったにゃか。

 子猫は驚きを禁じえません。なにせ蛙たちの とんちきさ加減によって子猫の中での蛙の信用は地に落ち地面を貫いて地下世界にまで埋没してしまっていたからです。

 と、その時足元に うぞうぞと動くものを猫の優れた動体視力は捕捉しました。
 素早く視線を向けるとそこに一匹のザリガニがいるではありませんか。
 ザリガニも子猫が自分に気付いたことに気付きます。

 おのれ猫め!くるならこい、この鋏で鼻先を力の限りにはさんでくれる!

 待てザリガニよ。わたしはお前を食べる気はにゃい。
 それよりどうしてこのような惨事ににゃったのか、よければ教えてくれまいか。

 食べる気はないと言われたものの、まだ警戒をとくつもりはないらしいザリガニは用心深く子猫を睨み上げながら、それでも事態の経緯を話し始めたのでした。

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