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良い子の童謡

[442]  矢野将規  2009-05-20投稿
その部屋の壁には、無数の目があり、中の住人を無言でじっくり覗いている。

「魔法使いのおば様、私、恋愛というものをしたくてよ」
「何をおっしゃいますか、お嬢様。お嬢様には、お父様がお決めになられた、いいなづけの隣部屋の王子様がいらっしゃるでは御座りませんか」
「あんなのは王子ではない。生娘が集るより小バエがたかっておるではないか」
「人間、見た目ではござりませぬぞ。特に、夫婦となる男性は、中身、人間性を第一とするべきです」
「私は私よ」
「お嬢様、ダメです!あ〜っ」

お嬢様、部屋から飛び出る。

「お嬢様、あなたはこの部屋におられるからこそ、お嬢様でいられたのです」
主の居なくなった部屋のドアが閉じる。
ドアに札がかかっている。
それには、こう書かれてあった。

『脚フェチ王子の覗き部屋はここ』

人には、その時、その場所でしかならぬという、適材適所というのがある。
お嬢様はどこへ?
お嬢様は、真の王子様と巡り合えるのか?
こんなの気休めにしかならないでしょうが、人間は、どこかで妥協していかなくてはならない生き物なのかも知れません。
しかしながら、お嬢様のおみ足は、それはそれは大変に、お美しいというお話でございます。



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