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人斬りの花 4

[500]  沖田 穂波  2009-05-31投稿

1-4 出哀

『人を‥,
斬れと言うのですか。』

抄司郎がその事実を知ったのは,武部に雇われてからひと月程経ってからだった。

いくら「負けなし」の抄司郎でもそれは道場試合での場合のみ。
本物の刃を人に向けた事などなかったが,
道場を潰すと脅され,
引き受けざるをえなかった。


その日は激しく雨の降る夏半ばの事だった。
抄司郎は今日,人を斬らなければならない。

人を斬ると言う現実から今すぐ逃げ出したい心持ちがする。
激しく降る雨の音だけが唯一安心できた。

『石澤 章殿とお見受けする。』

遂に,
抄司郎は剣を抜いた。
石澤 章。武部の元幹部であるこの男は,闇商業から足を洗って静かに娘と暮らしていた。
なのに何故,
石澤を斬らなければならないのか,抄司郎には分からなかった。

『娘共々斬れ。』

それが
武部の命令だ。

石澤の側には抄司郎と同じ年頃の娘も隣にいた。
どうやら目が悪いらしく誰かの手を借りなければ歩けないようだ。
常に父親の袖を掴んでいた。

『武部嘉市郎の命により斬らせて頂く。』

抄司郎は遂に石澤に向かって剣を振り上げた。
いつもと変わらず,
抄司郎の動きは素早い。
一断ちで即死だった。

生暖かい,
返り血を浴びた。

石澤は娘を庇うようにして絶命している。
抄司郎は肩で息をしながら顔面に跳ねた血を袖で拭った。

― 遂に人を斬った‥。

抄司郎は愕然とした。
それはこんなにも簡単に人が斬れる自分にだ。

石澤の娘は倒れた父親の袖をまだ掴んでいる。
抄司郎はその娘に刃を向けた。
娘は盲目ながらも,
今起きている境遇を察知しているらしい。

― 道場の為にも,
斬らねば‥。

抄司郎は大きく刀を振り下ろした。
その時,娘は。

『‥ありがとう。』

と呟いた。

『‥ぇ?』

娘の言葉に気を取られ,
手元が狂った。
おかげで娘は左頬に刀傷を受けただけだった。

娘は悲鳴も上げずに,
傷口を抑えてうずくまった。


≠≠続く≠≠

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