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死者の戯れ

[460]  風戸 桂  2009-06-01投稿
……?……
803号の部屋の前には、『霧島直哉・七海』と、かわいらしくハートで縁取られた表札が掲げられている。

それだけを見る限り、二人がそんなに仲が悪いとは、とても思えない。

だが、世間体を気にし、こうやってカモフラージュを施し、外面だけでも円満を装ってる夫婦はいる事だろう。まさしく、直哉達がそれだ。

ドアを開けると、玄関は暗いが、その奥のリビングからは光りが洩れている。

「はあ…」

またも、直哉は重々しい、ため息を吐いた。

明かりが付いてる時点で、七海が、まだ寝ていない事が立証されてしまった。嫌がおうにも、顔を合わせるのは必至だろう。

そう思うと、直哉の心中は、益々、気が気でなくなってしまう。

仕方なくも、リビングのドアを開けると、案の定、ゆったりとソファーで寛ぐ七海の後ろ姿がある。その前にあるテーブルの上には、ワインボトルとグラスが置かれ、一人で飲んでいた事を物語っている。

まあ、これも、今に始まった事ではない。七海はかなりのワイン好きで、昼間でも飲んでる事もままだ。こんな光景、直哉にとっては珍しくもなんともない。

ところが、今日は何か様子がおかしい。テーブルの上のワイングラスは乱らに倒れ、床に敷かれたベージュの絨毯が赤く染まっている。それに、よく見ると、七海の体は、前屈みに、ダラリと頷だれている。

どうやら、ワインに酔いしれ、寝てしまっているようだ。

「ちっ…。おい、七海!そんなとこで寝てたら風惹くぞ!」

直哉は、舌打ちしながらも、起こそうと声をかけた。

しかし、七海は呼び掛けに、全く反応を示さない。

「ったく…!おい!起きろよ、七海!」

ムッとし、直哉は七海の後ろに立つと、その肩を揺さぶった。

すると、七海の体は、何の抵抗もなく、崩れるように、前に倒れてゆく。

「えっ…?」

唖然となる直哉。テーブルに頭を打ちつけても、七海は起きる気配もない。

「お、おい。どうしたんだ、七海?!」

ただ、寝ているだけにしてはおかしい。直哉は焦り、ソファーの前へと回ると、七海の体を抱き起こしてみた。

その瞬間、直哉は蒼然と固まった。

「えっ…」

抱き起こした七海の体に、全く体温は感じられない。顔にも血の気もなく、蒼白している。

そして、ようやく彼は悟った。

七海は息をしていない。つまり、死んでいる、と…。

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