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死者の戯れ

[539]  風戸 桂  2009-06-01投稿
……?……

ブゥドゥ教…。

タヒチ諸島で、広く信仰される、その宗教は、罪人に対し、ある変わった罰を与えるという。

それは、生きるか死ぬか、己れ自身の生命力に委ねさせるというもの。つまりは、罪人に毒物を飲まし、それが致死量に達している者は死…。しかし、生き残った者には、罪を免除するというシステムが設けられているという。

一見、この上なく罪人にチャンスと感じられるシステムだが、実際はそんな生易しいものではない。仮に、生き残れたとしても、死ぬよりも辛い運命が待ち構えているのだ。

この罰に使用される毒物は、致死量を服用すると、万に一つ、生き残ったとしても、脳神経がほぼ機能しなくなり、ただ、息をしてるだけの人形に成れ果ててしまうのだ。
それでは、生き残った意味もなく、死んだ方が数段増しであろう。

その毒物とは、テトラドトキシン。身近では、フグの体内に生息する、危険な猛毒だ。
ブゥドゥ教では、このテトラドトキシンを昔から罪人への罰に用いており、その生き残った人間こそが、『ゾンビ』の発端とされている。

七海は、テトラドトキシンの毒性を綿密に調べあげ、今回の一件に用いた。

一歩間違えれば死。下手をすればデク人形。ほんの僅かな量の違いでも、どちらも地獄行き。
七海は、その中間を保ち、一種の仮死状態を狙ったのだ。

過去に、フグ中毒で亡くなった男が、突如、蘇ったという事例もある。言わば、仮死状態だったわけだ。
七海も、それ同様に仮死状態になるようテトラドトキシンを服用したのだ。

そう。直哉がワインに仕込んでいた毒など、七海は口にしていなかったのだ…。

これが、七海が蘇った真相だ。しかし、直哉はどうして…?

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