携帯小説!(スマートフォン版)

トップページ >> 恋愛 >> 人斬りの花 5

人斬りの花 5

[498]  沖田 穂波  2009-06-05投稿

1-5 出哀

『お前,石澤の娘を斬らなかったそうだな。』

武部がついさっき帰宅したばかりの抄司郎に言った。
抄司郎はまだ返り血と雨に濡れた姿のままだ。

『「斬らなかった。」のではなく,斬れなかったんですよ。』

抄司郎は俯いた。
ポタポタと血の入り混じった雨の雫が,地面に絶えず落ちる。
武部はその汚れた地面を嫌らしそうに見てから,

『私は‥親子共々斬れと言った筈だが‥。』

と抄司郎を睨んだ。

『娘は,盲目でした。』

『‥だから娘に情けを感じて,斬らなかったとでも言うのか。』

『‥。』

抄司郎は娘に刃を向けた時の事を思い出した。

― 違う。

抄司郎は拳を握った。
本当は,
娘に情けを感じたのではない。元々斬ることに躊躇いのあった娘の言葉に動揺して逃げたのだ。

【ありがとう。】

確かに娘はそう言った。その言葉の意味が未だに分からなかった。

『何としてでも,娘を斬れ。』

武部は尚も抄司郎に言いつけた。次失敗したら武部は何をしでかすか分からない様な,
妙な気迫を持っている。

『‥。』

抄司郎はそれを引き受けるべきか迷っていた。
盲目な上,左頬に刀傷がある娘はすぐに見つかる筈だ。しかし,斬る事の出来なかった娘に,
もう一度刃を向ける事ができるのか抄司郎は不安だったのだ。

『‥抄司郎。』

武部は迷っている抄司郎を見て言った。

『お前は既に,人斬りなのだよ。』



抄司郎はそれを引き受けた。
それから何度も刀傷の娘を探しに出たが,
意外な事に行方がわからず,遂に見つかる事はなかった。


≠≠続く≠≠

感想

感想はありません。

「 沖田 穂波 」の携帯小説

恋愛の新着携帯小説

利用規約 - サイトマップ - 運営団体
© TagajoTown 管理人のメールアドレス