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人斬りの花 7

[417]  沖田 穂波  2009-06-13投稿

2-2 椿

抄司郎の時が止まった。
女は落ちた刀を拾い上げ付いた血を丁寧に拭き取っている

[可哀想な人。]

女のこの言葉が何度も思い出された。

― 自分は可哀想な人間なのだろうか?

こんな事は,
今まで考えたこともなかった。
あまりに難しい問題に悩まされそうだ。


『おい,そこに居るのは誰だ!?』

京右衛門の仲間らしき人物の声で,
抄司郎はやっと我に返った。

『人斬りだ!!お前達,
出はえ!!出はえ!!』

絶命している京右衛門を見て何者かが指図をすると,20人程の侍が,
闘志剥き出しで駆けてきた。

さすがの抄司郎も,
不意を突かれて勝ち目がないと感じたのか,
刀を抱えた女の手を強引に引き,
急いでその場を去った。


現場から,
少し離れた河原に来た。
女は素直に抄司郎の後に付いて,未だ刀を抱えている。

女の正体は分からない。
暗闇で顔もよく見えなかった。

だが,犯行を目撃されたからには,
生かしておく訳にはいかない。

抄司郎はもう一本の短刀に手をかけた。

次第に月明かりが地上を照らした。
刀がその光を不思議な程に跳ね返す。

やっと互いの姿が見えるようになった時,
抄司郎は驚きで言葉を失った。

女の左頬に,大きな刀傷があったのだ。
四年前,盲目の娘を斬りつけた時と同じ傷だ。

[何としてでも斬れ。]

いつだか武部が言った言葉が蘇った。

― 斬らなければ‥。

そう思うのだが,
抄司郎は,
斬る事に踏ん切りがつかないでいた。

女は,
盲目ではなかったのだ。

いや,それよりも,
女があまりにも美しかったからだと言った方が,
正しいだろう。


≠≠続く≠≠


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