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MLS001 001

[1079]  砂春陽 遥花  2009-06-14投稿
白い天井。

白い蛍光灯。

白い壁。

耳障りな規則正しい電子音。

息をすれば目の下でマスクが曇る。

花鼓は病院のベッドの上で目を覚ました。


背もたれもない椅子の上で母がうたた寝をしている。

かくっ、かくっと落ちる頭が、
転げ落ちないギリギリのバランスを保って止まる。

ああ、危ないと思い、起き上がろうとするも
花鼓の上半身は鉄の塊のように
ピクリとも動かなかった。

虚しい抵抗を試みた左腕が、
細い管を使って
点滴台の先端で透明な液体をたたえる点滴袋の腹を揺すった。


「花鼓、起きたの。」

素っ頓狂な母の声に振り向くと
潤む大きな2つの瞳が
こちらをじっと見ていた。
みるみるうちに涙が溢れ
頬を滑り落ちる。


ああ、そうだった。

毒々しい緑のプラスチックの容器。

激しい吐き気。

寝室の冷たい床。

吹き抜ける喧騒。

後は、闇、闇、闇。

切れ切れの記憶が
涙を拭う母の背に映し出される。


「ごめんなさい。」

言葉が口を突いて出た。


私は、
死のうとしたんだ。


見回りに来た看護士さんが
母、来実子に何か言った。
来実子はくしゃくしゃになったハンカチを片手に
涙に濡れる満面の笑みで
何度も何度も頭を下げた。


「もう起きないかと思って。」

看護士が去ると
来実子は花鼓の隣に来て、
また泣いた。

無機質な白い天井と
ベージュの冷たいカーテンの間で、
薄桃色の花柄のチュニックに
白いカーディガンを羽織った
来実子の細い両肩が、
花鼓に安らぎを与えた。

帰って来て、よかった。


息をする度に顔の上のマスクが
曇っては、晴れ、
晴れては、曇った。

感想

  • 24849: 翔:遥花さんの作品、改めて最初から読み直してます。 [2011-01-16]
  • 24850: 翔:名作に値する素晴らしい冒頭部ですね! [2011-01-16]
  • 26383: わわわ…勿体無いお言葉ありがとうございます! [2011-01-16]
  • 26384: 当人でさえ読み直しに数時間かかってしまうものに [2011-01-16]
  • 26385: 貴重なお時間を使って頂けて…嬉しいです(>_<):遥花 [2011-01-16]

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