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「君もおいでよ」

[883]  kuniichi  2009-07-03投稿
「君もおいでよ」
僕は寒気すら感じた。
少女の顔にはうっすらと微笑が浮かんでいる。学校では見たことのない表情だ。思わず後退る。その踵が何かにつまづいた。少し弾力のあるそれを、反射的に振り返ろうとした首に警鐘が鳴り響く。
こんな暗い夜道でこの娘は何をしているのか?分からない。分からないが、普通でないことは明らかだ。 その少女は立ちすくむ僕へと一歩踏み出してきた。右手でそっと僕の左手を握る。その手は濡れていた。汗をかくような気温か?
反対の手には何か光るものが握られていた。携帯にしては少し長すぎる。少女がそれを渡してきた。反射的に受け取ってしまった。「犯人は私とあなたどっちかしら?」またあの微笑。 背筋が凍った。柄を握る手に力がこもる。

気が付いたときには目の前に少女はいなかった。僕の両手は濡れていた。汗をかくような気温か?
爪先に何か触れた。少女は足元からこちらを見ていた。先ほどと同じ微笑。
「そこで何してる?」
背後からライトを浴びる。警察官か?確認する勇気などあるわけない。ナイフをそっと喉元にあてる。
「君もおいでよ」
少女の声が脳裏に響く。君が言いたかったのは今の僕か?それとも、今からそうなるだろう君の姿か?
少女は微笑を浮かべたまま僕を見つめ続けていた。

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