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ほんの小さな私事(44)

[341]  稲村コウ  2009-07-11投稿
学校には、八時十分前に到着した。朝のホームルームは八時二十分に始まるので、まだ大分時間がある。
私はその時間を使って、一度、弓道場へ向かう事にした。
高野さんと山下さんとは、下駄箱前で別れ、私は昨日行った経路で弓道場へと向かう。
途中の総合道場からは、朝練に励む剣道部員と、柔道部員の声が響いていたが、やはり奥の弓道場からは、全く音が聞こえてこなかった。
取り敢えず私は、総合道場を覗き込む。中では瀧口先生が掛け声をかけ、それに続けて部員達が竹刀の素振りをしているのが見えた。
暫くして瀧口先生が私に気付くと、「素振りやめ!次は二人一組になって形を見合え。」と言ったあと、私の方に寄ってきた。
「おはようございます。」
私が先生に向かって挨拶すると、彼女は竹刀を壁に立て掛けたあと、「やあ牧野、おはよう。」と挨拶を返してきた。
「弓道場の事なら、昨日、山崎さんが色々とやってくれたから、すぐにでも道場は使えるようになっていると思う。鍵は…まだ開けていないから、これて鍵を…。」
彼女はそう言いながら、ジャージのポケットをまさぐったが、しかめ面をしてみせた。
「む…。弓道場の鍵は職員室に置いてきてしまったかな…。悪いが牧野、職員室まで行って鍵を持ってきてくれないか?」
そう言われて私は、「はい。わかりました。」と言って、職員室に向かおうとしたが、振り向いたそこには、山崎さんの姿があった。
「弓道場の鍵ならここに持ってきておるよ。」
彼は細い目を更に細め、笑いながらそう言った。

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