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ほんの小さな私事(46)

[334]  稲村コウ  2009-07-14投稿
射的場に入り、私は周囲を見渡してみる。
広さはそれなりにあり、七〜八人が並んで競技が出来るぐらいだろうか?
これを私一人で使うのは、ちょっと勿体ない気もする。
的は、現在ここが利用されていない故か設置されていなかったが、広場は綺麗に清掃されていたのがわかった。
「この奥に道具置き場があるで、必要なものはそこからもってくるといい。昨年の備品が幾らかまだ残っている筈じゃが、それでいて何か足りない物があるのなら、ワシに言ってくれい。教頭に取り入って用意しようぞ。」
山崎さんは、そう色々説明してくれた。しかしながら思うのは、なぜこれ程の施設があるのに、部員が全く居ないのか?
前任の顧問は、転勤してしまったとは聞かされているものの、その後受けをする先生が居ないのも疑問である。
「…ふむ。どうやらお前さんは、ここに全く人が居ないのが不思議と考えとる様じゃな。何故だか知りたいかね?」
そう言われ、私はドキッとした。
「どうして今、私が考えていた事を…?」
「なぁに、お前さんの顔にそう書いてあったよ。」
この方は、私の様に、相手の何かが見えるのだろうか?それとも、私の表情に考えている事が浮かんで、それを見て捉えることができるとか…。
色々と推測が膨らむ一方で、やはり気になるのは、部員不在となっていた、この弓道部の事だ。
「はい。やはり気になります。こんな大きな設備があるのに人が居ないのは、余りにもおかしいと思いまして…。」
そう私が言うと、山崎さんは、笑顔から、少し真剣な表情に変えて言った。
「呪いじゃよ。」
「えっ?…呪い…ですか?」
信じられない様な発言に戸惑う私。
「うむ。呪いじゃ。こう聞いて信じられんとは思うじゃろうが、真実じゃて。」
そう言葉にする山崎さん。目は真剣そのものであった。

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