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リレー小説「楽園」:翔

[1141]  2009-07-27投稿
【楽園】第五話


おばあさんと名無しの二人は、この小さな町で一番賑やかな通りへと、たどり着きました。

狭い通りながらも、そこには名無しが見たこともない野菜や魚、洋服、雑貨などで溢れ返っています。

ずっと暗闇の中で過ごして来た名無しにとって、まるで夢のような場所でした。

二人は、ごった返す通りを、ゆっくり掻き分けるように歩みを進めました。

――その時です。

突然、漆黒の闇が空全体を覆いました。

何十年ぶりの皆既日食がちょうど起こったのです。

しかし片田舎の町の住人たちは、そのことを知りません。

たちまちパニックが起こりました。

暗闇にうろたえて、ぶつかりあう町の人々。飛び交う野菜や魚。

おばあさんと名無しの二人も、誰かに押され、その場に倒れ込みました。

人々が逃げまどい、通りが静かになった頃、空には再び明るい太陽が戻って来ました。

しかし名無しの手元には、大切な時計がありません。

名無しは、うろたえました。

初めて大切な物を失ってしまった、何とも言えない悲しい気持ちでした。

呆然と立ちすくんだまま、泣き出す名無しにおばあさんは言いました。
「大丈夫。心の耳で時計の音を聞きなさい」

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