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人斬りの花 19

[381]  沖田 穂波  2009-07-30投稿

3-6 香


武部の手下達は,家中を探し回っている。
裏口から逃げる際に見つかったのだろう。
一人,抄司郎のあとを付ける者が居る。

― 困ったな。

救った者の面倒を最後までみる事を,全うしたい抄司郎は悩んだ。
武部のもとを離れた今,むやみに剣を抜くことはしたくない。
相手の出方次第だと思った。

椿はまだ付けられている事に気付いていない。
何かを気にしながら歩く抄司郎に,椿は不安げな顔をして言った。

『抄司郎さん,一体どう言う事なのです?説明してください。』

しかし,追っ手ばかり気にしている抄司郎に,椿の言葉は耳に入らない。

『いい加減にしてください!!』

椿は抄司郎の手を振り払い立ち止まった。
追っ手は木の影に素早く身を隠した。

『説明してください。何なんですかこれは。』

美しい顔が怒っていた。
そんな椿に一瞬見とれそうになったが,

『すみません,今はまだ,説明出来ない。』

抄司郎は椿を諭した。

『でも,こんなのあんまりです!!』

椿は,見た目とは裏腹に気が強いらしい。
尚も抄司郎に言った。

『私,あなたにまた迷惑をかけているのではありませんか?』

『迷惑など‥。』

追っ手は椿の背後に回り込んだ。
抄司郎はそれを目で追いながら言った。

『昨日の事も全て,私自らやっていることですから,椿さんは何も心配する事はありませんよ。』

『だけど‥。』

その時だった。
背後に回った追っ手が飛び出し,椿に斬りかかったのだ。

『危ない!!』

抄司郎はとっさに剣を抜いた。


追っ手は死んだ。
勿論,一太刀だった。
鮮やかすぎる抄司郎の剣を,椿は驚きと恐怖で,地面に崩れ落ちて,ただじっと見ていた。

『あなたは,狙われているんです。』

抄司郎は刀をおさめた。

『‥私が?』

椿の声は恐怖で震えている。

『でも‥』

抄司郎は椿に手を差し伸べて助け起こし,

『あなたは俺が守りますから。』

そう決意を固め言った。
それが,
唯一できる,椿への罪滅ぼしなのだと。

≠≠続く≠≠

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