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ほんの小さな私事(70)

[342]  稲村コウ  2009-08-17投稿
少し間をおいて、高野さんは、ヤカンとコップを持って戻ってきた。
もうこの頃には、ある程度、体が動くようになっていたので、高野さんがコップに汲んでくれた水を受け取り、それをゆっくり喉に流し込んだ。
「どう?少しは良くなった?」
「ええ、何とか…。」
私はこの時、先ほどの恥ずかしさを引きずっていたので、返答が少々歯切れの悪い感じになっていた。
それを気にしたのだろう。高野さんは、申し訳なさそうに私に言った。
「さっきの事、怒ってる?ごめんね、ホントに。つい、沙羅ちゃんが…こういう言い方もなんだけど、自然に色っぽくて、どうしてもファインダーにおさめたくなっちゃって、ね。」
言いたい事は解るし、高野さんらしいと言えば高野さんらしい。それに私は、別に怒っているという訳でもなかったので、首を横に振って答えた。
「いいんです。…ただ、ちょっと…恥ずかしくて…戸惑ってしまいました。」
そう言うと高野さんは、ホッと息を吐いた。
「そっか。そう言う事だったのね。でもホントに、さっきの沙羅ちゃん、同姓の私から見ても魅力的な感じになってたのよ。それでつい、むらむら…。って、変な意味じゃないよ。あ…うーん、私が男だったら…きっと襲いかかっちゃってたかもね?」
高野さんはそんな風に一人でノリツッコミをしつつ、笑いながら、私に襲いかかる仕草をしてみせた。
「なんだか想像が難しいです。私、そんなに教われそうな感じでしたか?」
そう私が言うと高野さんは、苦笑いしながら言った。
「んもー。そんなこと言ってると、女の子がみんな、敵にまわっちゃうぞ!まぁ、そういうとこが沙羅ちゃんらしいんだろうけど、ね。」
彼女はそう言いながら、塗らしたハンカチで、私の体の汗を拭き取ってくれた。

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