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ほんの小さな私事(85)

[336]  稲村コウ  2009-09-03投稿
登校の道のりの中、私たちの会話は薄くなっていた。
それはやはり、本来なら一緒に居る筈の山下さんの存在が無い事が大きかった。
ただ、双方とも、その事を口にせず、他の話題でお茶を濁す様に会話していたのだが、どうしても山下さんの事が脳裏から離れず、ギクシャクした会話になってしまっていた。
「やっぱり…だめ。心配で…気になっちゃって…。カズちゃん…今、どこでどうしてるんだろ?こんなこと言ったって、どうなる訳じゃないって解ってるけど…。」
先ほどまで、無理に笑顔を見せつつ喋っていた高野さんだったが、不意にうなだれて、そう言葉にした。
正直なところ、私も同じ考えであったが、何故か私には、山下さんが、無事であるという感じを覚えていた。
なんと言えばいいのだろう?山下さんの存在がどこかにあるという感覚が、私の直感に響いているというか…。
しかしながら、それはあくまでも私の感覚に過ぎない訳で…それに、そういった感覚を頼りに、山下さんを捜せるという訳でもないので、やきもきした気持ちで胸がいっぱいになっていた。
「とにかく学校で、先生に、昨日の捜索の事を聞いてみましょう。もしかしたら既に保護されていたりするかも知れません。」
「…うん…そうよね。解ってるんだけど、やっぱり…。」
そういう高野さんに、私は改めて、彼女の人に対する想いの強さを感じていた。
「高野さんがそこまで心配しているのなら、きっと、その想いは良い方向の力になると思います。山下さんはどこかできっと、その想いを受け取ってくれていると思いますよ。」
私がそう言うと、高野さんは私の手を握って言った。
「私、あの子が無事だって信じてる!」
そんな彼女に私は、元気付ける気持ちを込めて、笑顔を見せた。

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