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消えた30の瞳

[564]  内田俊章  2009-09-23投稿
 「はい。私の父は、こちらです」

 矢口は斉藤を、父親の遺体の傍へ案内した。

 斉藤は、ヘルメットを脱いで膝まづくと、深々と頭を下げ、手を合わせた。

 そして、その横に並べられた、セスナ機の犠牲者、5人の遺体にも手を合わせた。

 「後の9人は、こちらです」

 野崎が、大きな穴を指差すと、斉藤が、穴を覗き込んだ。

 斉藤は一瞬、地獄の様相に顔を背けたが、同じ様に手を合わせた。

 そして、同行して来た捜索隊員に指示を出し、引き上げ作業が始まった。

 斉藤は、矢口と野崎の方に向き直ると、静かに話を始めた。

 「矢口君。私は大変な事をしてしまった。……」

 斉藤は、矢口の父親が、滑落事故に遭った後の事を、全て話した。

 「矢口君。君の父親は、偉大な山男だった。登山者の安全を、誰よりも考えていた。私は、その矢口隊長に嫉妬していた……」

 矢口は、斉藤が本心から話しているのを感じた。

 「私は、この作業が終わった後、責任を取ることを決めた。本当に申し訳ない事をしてしまった」

 斉藤は、2人に頭を下げると、自ら水に濡れながら、遺体の引き上げ作業に加わった。


〜〜終わり〜〜

感想

  • 31041: 今回もよかったですよ! [2011-01-16]

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