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交差する命

[596]  藤本愛梨  2009-09-24投稿
全てが終わった
僕の持っている、何もかも…
僕は医療ミスを犯し人を殺した…
それ以上の事は言いたくない
脳が鈍っていく、薬でも打たれたような感覚だ
僕は病院の屋上にいた
「死のう」
心の中で呟いた
柵に手を掛ける
ひやりとした感覚に背筋が震える
「あの…自殺するんですか?」
後から声がした
僕は振り向いた
白いネグリジェを着た四十代位の、女性が立っていた
顔は薄暗いので分からない
「あ…あの…」
僕は返答に困った
彼女は透かさず口を開いた
「私にその命くれませんか?」
何を言ってるんだ?
「捨てるならその命、欲しいの」
「どうやって?」
「こうやって」
彼女の両手が僕の肩を強く押す
………
僕は宙に浮かぶ感覚を…
いや、空を飛んでる?
重力を感じた、落ちる。
どうやら落下しているらしい。
「ああ、死ぬんだ」
ゆっくり瞳を閉じた。
でも、あの女性は一体?
彼女の姿を見ようと瞳をあけた
いなかった…
僕は気を失った

眩しい
瞳に光が差し込んできた
「地獄?」呟いてみた
女の声が聞こえた
瞳を開けてみた
白い壁が見えた
嗅ぎなれた匂いが鼻についた…消毒の匂い
「病院?」
体を持ち上げてみた
肩にかかっていた布団が落ちる
「生きてる?…」
思わず声を出した。
でも何かが違う
何故、女の声が…
恐る恐る鏡を観てみる。
女の姿が写った
「うわぁ」
慌ててベッドを飛び出し、部屋を飛び出し、通路を駆け抜けた。
目の前に老女が車椅子で横切る
間一髪、老女をかわした
老女が懐かしそうな笑顔でこちらへ向かってくる
「美月…お母さん…ちゃんと覚えてるからね」
手を握ってきた
「お母さん…子供になっちゃったけど…ちゃんと美月を愛してる」
老女の瞳に涙が浮かんだ。「うん…分かってるよ」
勝手に口が動いた。
頬を何かがつたった
なんでだろう。ずっとこの言葉を聞きたかった
ゆっくり瞳を閉じた。
テレビのニュースが聞こえる<○病院で医療ミスです…死亡したのは坂本美月さん…>
看護婦らしい声が聞こえる。
「坂本さん昨日も徘徊して…娘さん亡くったのも分からないみたい」

嗚呼…僕が殺してしまった彼女か…
警察のサイレンが聞こえる<飛び下り自殺…○病院医師の…>

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