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短編・ベッド

[1012]  ゆうこ  2009-10-01投稿

オークションで落札したベッドに、あたしは一度も寝ることはなかった。

シングルサイズのそれは
来た時から異質な空気をまとっていた。

染みや汚れなんかはないし、フレームも綺麗な本物の木製だし。

でもなんだか…新品じゃないというだけじゃなく何かに「まみれた」雰囲気が、あたしに寝ることを躊躇わせた。

そしてそれが正しかったことをしる。

だって、シングルサイズに二人は寝られないでしょう?

あたしが歯磨きを終えて 気が進まないながらも寝ようかとセットした掛け布団を捲ると、そこには女がいた。

女は獣みたいにうつ伏せにうずくまって、あたしを白く濁った目で見つめて…裸の体は血にまみれていた。

実際、女は唸っていた。
怒りとも悲しみともつかない、犬じみた声を発していた。
唇を震わせて声を押し出す度に、どす黒い血液がベッドを染める。

あたしが動けずにいると、女はゆっくりと延び上がった。
ぐにゃりとした動きは人間のそれではなく、骨や肉を感じない奇妙な動作だった。

青ざめた女は、腐臭を撒き散らし、囁く。
女の裸体を濡らす血液は止めどなく部屋を汚していく。
犬のような呻きとは明らかに違う、憎しみを帯びた声が耳元よりも奥に響く。

あたしはその言葉に目をみはった。



次の日、あたしは1日を費やして、狂ったようにベッドマットにカッターを突き立てていた。

表面の分厚い布を引き裂き、ウレタンを剥き出しにして…ようやく、得たかったものを見た。

見つけたよ…。


そこには一本の長い髪の毛…今は死んでいる女の遺留品。

どうやったらこんなところに彼女の髪が入り込んだのだろう?

だが、それはどうでもいいことだ。


あたしは警察に電話をした。

この髪の毛で何かが変わる…それは予感ではなく確信だ。




彼女のことは、よく知っていた。
ワイドショーでよく見ていた。

玄関に大量の血痕を残したまま行方のわからなくなったOLだ。



おそらく、これで彼女はゆっくり寝られるだろう

あの出品者は、ベッドの他に何を出品していたっけ…。

警察が来るまでの間、あたしは漠然とそんなことを考えていた…。





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