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心の忘れ物 【3】

[468]  ジィーコ  2009-10-06投稿


僕が靴をぬくと祖母は僕を案内した。

僕は周りを見渡しながら祖母の後についていった。
昔より壁などがタバコのヤニの所為か、黒ずんでいた。

奥の部屋(普段は客間だった部屋)に着くと祖母は脚を止め、「あそこじゃよ」と言って顔を『それ』の方に向けた。

僕も祖母の視線の方に顔を向けた。


「……!!!」


『それ』は僕の身体を一瞬で石のように固まらせた。

そこには『あの人』が入っているだろう棺桶が置いてあった。

――息が出来ない。身体が動かない。背中に汗が流れるのを感じる。視点が棺桶から離れない。


「………。」


「顔…見てみるかい?」

その声が僕を我に返らせた。
しかし、上手く口が動かせない。

「い…いや…い…今は止めておくよ…」


「…そーかぃ?…」

祖母は少し俯き、しばらく沈黙した。
しかし、祖母は何かを決心したかのか顔を上げまじまじと僕の瞳を見て「ついといで」と言って、客間を出て行った。

僕はわけもわからず、祖母の背中を追いかけた。


ミシミシと鳴り響く廊下を渡り祖母が足を止めたのは『あの人』の部屋(寝室)だった。


「ここに座って」

僕は祖母の指示に従い、畳の上に正座をして座った。

そして祖母は『あの人』の机の引き出しの中から何かを取り出し、僕の前に正座し、目を閉じて息を整えてから、皺だらけの目もとをより皺くちゃにし目を大きく開けた。


「あなたにいくつか渡したい物があるんよ」

祖母はしっかりとした口調で言うと、僕の膝の前に一枚の色あせた紙を置いた。

裏面には何か書いてあるようだが…
『あの人』の遺書だろうか?


「ばあちゃん…これは…?」


祖母は何も答えず、無言でそれを僕に読むように促した。

僕は恐る恐る色褪せた紙を持ち上げひっくり返した。


「これはッ!!?」


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