携帯小説!(スマートフォン版)

トップページ >> ノンジャンル >> 喋るボーリングの球

喋るボーリングの球

[518]  hiro  2009-10-06投稿
あいつが俺の家に来た時、俺たちは優奈をめぐって大喧嘩をした。
「優奈は俺のものだ!」
そう叫んだ俺は、近くにあったボーリングの球を持ち上げ、あいつの頭目掛けて思い切り振り下ろした…。

あいつはバタリと倒れ込んだ。死んだ、はずだった…。
「何しやがる!どうなってんだ!?」

…………!

手に持つボーリングの球から、なぜか、あいつの声が…?


しばらく考えた結果、俺はある結論に至った。

頭を殴った衝撃で、あいつの意識がボーリングの球に移ってしまったのだ。

そして、ボーリングの球が再び喋り始めた。
「こうなってしまったからには、仕方がない。さっきは悪かったな。おれだって鬼じゃないさ、お前と優奈を結婚まで導いてやるよ」
それからあいつは、自身の遺体の処理などについても丁寧に指示してくれた。


数日後、俺は優奈とデートをした。場所は、ボーリング場だ。
「優奈、この1球でストライクを出したら、俺と結婚してくれ」
俺はあいつの宿った球を持ちながら、プロポーズをした。
「えっ!じゃあ、もし、ストライクじゃなかったら…?」
優奈が不安げに訊いてきた。俺はあいつのシナリオ通りに答える。
「その時は別れよう…。それぐらい真剣だよ」
そしてついに、運命の時。
「おい、大丈夫なんだよな?」
俺がそう訊くと、
「任せとけ。お前はただおれを投げてくれればいい。あとはおれが自力でピンを全て倒すぜ!」
とあいつが答えた。俺はそれにそっと頷いて、あいつを投げた。

球は勢い良く転がっていく……と思ったら、急激にスピードが緩んで、左にユルユルとそれてしまった。
俺はとっさに優奈の方を見た。
「何よ、それ。わたし、帰る!」
そう言い残して、優奈は本当に帰って行った。

「何がストライクだよ!ふざけるな!」
俺は戻ってきたあいつに怒鳴った。それでもあいつは冷静だった。
「そう簡単に、優奈を渡すかよ」
ボーリングの球が、俺に向かってポツリと言い放った。


俺は、上手く球を転がすどころか、
球に上手く転がされた気がしたのだった。

感想

感想はありません。

「 hiro 」の携帯小説

ノンジャンルの新着携帯小説

利用規約 - サイトマップ - 運営団体
© TagajoTown 管理人のメールアドレス