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ほんの小さな私事(115)

[333]  稲村コウ  2009-10-13投稿
飛んできた紫色の靄は、香取君に当たった筈であった。だが、香取君は、何事も無かったかのように、そこに立ち尽くしている。
よく見ると、香取君の体の周囲に、散り散りになった紫色の靄が漂っているのが見えた。
もしかしたら、今、香取君が身に纏っている光が、弾いたのだろうか?
続けて山下さんの方向に目を向けてみると、赤色の靄が、少し山下さんの体から離れてきているように見えた。
「風が弱くなった…。霊の力が弱まったのか?…いや、念には念を…だ。うまく動作してくれよ!」
櫻井君がそう言いながら、先ほど準備していた機械を目の前に掲げ、スイッチを入れた。すると、その機械から、キィィンという高い音が鳴り響いた。
その音はさながら、黒板を爪で引っ掻いた様な不快な音で、私は、その音に耐えられず、両手で耳をふさいだ。
その一方、山下さんの方向を見ていると、赤色の靄が更に、山下さんから離れていく様子が見えた。
更に青色の靄も山下さんから離れてゆき、暫くして、山下さんは、ガクンと膝をつき、そのまま床にうつ伏せに倒れ込んだ。
香取君はそれを見て、素早く山下さんのもとに駆け寄る。気絶してしまっているらしい彼女を抱き起こし、声を掛けている様だった。
更に少しして、鳴り響いていた音が鳴り止んだ。
それに気付き、私は耳から手を下ろして、横に居る櫻井君を見る。
彼は、薄い煙を上げている機械を見ながら、苦い顔をして言った。
「…回路が電圧に耐えられなくて焼け切れてしまったみたいだ…。まだ、実験段階のものだったから、仕方ないんだけど…。」

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