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白い天使のうた(6)

[506]  宮平マリノ  2009-10-17投稿
久しぶりに聞く声だった。
なんだか、懐かしく、
こころすり抜けるような、
柔らかく、透き通るような。

なんて優しい人なんだろう。
声だけ聞いていて、
その人の人柄がわかる。

そして、声を上げる時の抑揚の仕方、
和らげる時のブレス使いが、
「そう、昨日の彼女に似ているんだよな。」
それが、塚本のこのCDを持ってきた一番の理由だった。

ふと横を見ると、
扉から顔を出した彼女の、いつもの木に向かおうとしている姿だった。
はっ、と塚本のいるのに気がついて、一瞬扉に戻ろうとしたが、
音楽が聞こえて、ふと足を止めた。

塚本に警戒しようかどうしようか、迷いながらも、
彼女の心が、曲のほうに惹かれているのがわかった。

それでも警戒したままで、その場に立ち尽くしている。
塚本は、「やれやれ」と思い、
その場でごろん、と横になった。
動物が、降参です、と仰向けにお腹を出すように。
敵ではないですよ、と主張するように。


結構アウトドア派の塚本ではあったが、
それでも芝生の上で横になるのは久しぶりだった。
あ、芝が背中にチクチク刺さるな。
太陽が、思ったよりも眩しく感じる。
あー、干し草のような。
布団が日に干されているような。
猫の日向ぼっこのような。
そんなことを思いながら、すっかり心地よくなってしまった。


はっ、と気がついた時には、
2回めのCDが、終わりのプロローグを流しているところだった。
「あぶね、すっかり、寝入ってしまった。」
と横を見ると、

始め、十数メートル先に立っていただろう彼女が、
5メートル程先のとこに、
デッキに耳を当てるようにして、片方の頬を芝生につけて、目を閉じていた。
子猫が、親猫の足元で安心して休むように丸まっていた。

「歌が好きなんだな。」

彼女を覆っている武器がすべて剥がれ落ちたように、
うたを歌っている時の彼女はすごく自由だった。


それから、塚本と彼女の長い忍耐のいる日々が始まった。



(注意・歌い手の評価は、あくまでも作者が執筆用に書いたもので、実際のアーティストとは違う所があります。)

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